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フッ化物固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池を開発 ―安全で安定した充放電ができる全固体リチウムイオン電池の量産化へ大きな一歩―

カテゴリ:プレスリリース|2024年04月12日掲載


発表のポイント

〇 Li3AlF6のLi+伝導度向上に成功
〇 プレス成型のみで動作する全固体リチウムイオン電池を構築
〇 全固体リチウムイオン電池の高性能化?実用化に期待

概要

 名古屋工業大学大学院工学研究科工学専攻(物理工学領域)の宮崎怜雄奈准教授は、日本ガイシ株式会社との共同研究で、フッ化物材料Li3AlF6(※①)のLi+伝導度向上に成功し、極めて安定に動作できる全固体リチウムイオン電池(※②)を構築しました。今回開発したLi3AlF6-Li2SiF6系材料は、大気のハンドリングも可能であり、全固体リチウムイオン電池の高性能化や量産化に繋がる重要な成果です。
 本研究で着目したフッ化物材料Li3AlF6は、大気中で安定であり発火することもないため、リチウムイオン電池(※③)の材料として応用できそうなことは、30年ほど前から知られていました。しかし固体電解質(※④)としてはLi+伝導度(※⑤)が低く、電池の内部抵抗低減が課題でした。本研究ではボールミリング(※⑥)によりLi2SiF6を混合することで、Li3AlF6のLi+伝導度を3× 10-5 S/cm(@30 ℃)まで向上させることに成功しました。またLi3AlF6-Li2SiF6は程よく"柔らかい"材料であり、室温でプレス成型するだけで正極?負極と緻密な界面を構築できることがわかりました。その結果、極めて安定に充放電できる全固体リチウムイオン電池を構築することに成功しました(図1)。この電池はドライルーム(※⑦)内で、室温プレス成型で作製されました。

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図 1(a): Li3AlF6-Li2SiF6 (Si: 20 mol%)を固体電解質に用いた全固体リチウム電池の充放電測定結果
  (b): 充放電サイクル毎の放電容量(青丸)とクーロン効率(白丸)(※⑧)

 

 固体電解質は大気中の水分や酸素、二酸化炭素と反応する材料が多く、グローブボックス(※⑨)中で扱われます。これに対してLi3AlF6-Li2SiF6は大気中でも安定であり、ハンドリングが容易である点も大きな特徴です。本研究で開発したLi3AlF6-Li2SiF6は、Li+伝導度、プレス成型性、電池特性、大気安定性をうまく両立した固体電解質であり、全固体リチウムイオン電池の高性能化が更に進むと期待されます。
 本研究成果は2024314日にACS Applied Energy Materialsに掲載されました。

研究の背景 

 リチウムイオン電池は、軽量かつコンパクトにエネルギーを蓄えることができるため、「小型?軽量化」が求められる携帯機器に打ってつけの電池です。そのため色々な携帯機器に搭載されており、我々の日常生活に欠かせない電池となっています。近年は電気自動車や定置電源など、電池の大型化が求められています。しかし、リチウムイオン電池は発火事故が相次いでいます。これはリチウムイオン電池が高エネルギー密度であるがために直面している、喫緊の課題です。したがってリチウムイオン電池の開発は、電池の安全性を確保した上で特性を向上するという、一層厳しい制約が課されています。このような電池開発を可能にするのが、電解質に不燃性のセラミックスを用いた全固体リチウムイオン電池です。全固体リチウムイオン電池の実現?高性能化には、Li+伝導度が高い固体電解質が必須です。
 固体電解質は、高Li+伝導度以外にも様々な特性が要求されます。リチウムイオン電池は電圧が高く、正極?負極ともに非常に活性な状態で動作します。そのため、固体電解質はいずれの電極と接しても電気分解せずに安定である必要があります。また、液体と違って"硬い"固体電解質は、正極?負極と緻密に接触することが難しいという課題もあります。当然、日常生活で使われる以上、大気に触れて有毒なガスが発生する材料ではいけません。したがって、Li+伝導度、電極との安定性、適度な柔らかさ、大気安定性、これらを両立する固体電解質が求められていました。

研究の内容?成果

 Li3AlF6はAl2O3の溶融塩電解にも使用されており、大気中で安定な材料です。また理論計算からは、Li3AlF6はリチウムイオン電池の正極?負極いずれと接触しても、電気分解することなく安定に存在できると予測されていました。しかしLi+伝導度が低く、全固体電池への応用にはLi+伝導度向上がカギでした。本研究ではLi3AlF6をLi2SiF6とボールミリングすることで、Li+伝導度を大幅に向上させることに成功しました(図2)。Li3AlF6では、150 ℃における抵抗が約12 MΩとなっており、ほぼ絶縁体であることがわかります(図2(a))。しかしLi2SiF6とボールミリングをすることで、30 kΩ·cm程度まで抵抗率が減少しました(図2(b))。

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図 2 交流電圧で試料の抵抗を測定した結果。観測された半円の直径が試料の抵抗を表しています。
(a): ボールミリングを行っていないLi3AlF6の150℃における測定結果。半円の直径が12 MΩ程度になっており、抵抗が非常に大きいことがわかります。
(b): 今回作製したLi3AlF6-Li2SiF6の測定結果(@室温)。抵抗率が30 kΩ?cm程度まで減少していることがわかります。

 

 この値はLi+伝導度に換算すると3 × 10-5 S/cm(@室温)となり、固体電解質として使用可能な値です。Li+伝導度が向上した理由としては、ボールミリングによりLi3AlF6とLi2SiF6が原子レベルで混合した結果、Li3AlF6結晶中にLi+空孔が生成し、Li+が動ける隙間が形成されたためではないかと推測しています。多くのセラミックスは、緻密化のために1000 ℃程度で焼き固める必要がありますが、Li3AlF6-Li2SiF6はプレス成型のみで緻密化が可能であり、焼き固めることなく電池構築できることがわかりました。Li3AlF6-Li2SiF6のこの特性は固体電解質としては大変望ましく、電池作製プロセスの簡略化だけでなく、電池の命ともいえる電極/電解質界面をプレス成型のみで緻密化することができるため、電池の内部抵抗の低減に繋がります。
 また、Li3AlF6-Li2SiF6は大気中に24時間放置しても分解することなく、高いLi+伝導度を維持できることがわかりました。そのため煩雑で手狭なグローブボックス内の作業が不要となるため、電池の量産体制によくマッチしている材料と言えます。

社会的な意義

 これまでに着目されている固体電解質は、ほとんどが硫化物系あるいは酸化物系の材料でした。今回の研究で、全く新しいフッ化物Li3AlF6が、Li+伝導度だけでなく、電極との安定性やプレス成型性を有していることを突き止め、充放電サイクル特性の良好な電池を構築できました。このことは、他のフッ化物系材料にも、まだまだ未知の固体電解質が存在している可能性を示唆しています。今後の電気自動車や大型の定置用電源の開発において、蓄電池の占める役割は一層重要となり、国際的な競争も熾烈になっていくと予想されます。しかしながら、液体電解質を用いたリチウムイオン電池は、既にアジア諸国のメーカーにシェアを奪われつつあります。このような電池競争の中で、全固体リチウムイオン電池の実用化に繋がる新規固体電解質を開発していくことは、将来的には我が国の産業界の活力にも繋がると期待されます。

今後の展望

 今回Li3AlF6-Li2SiF6で得られたLi+伝導度は、電池の高出力化を考えると、まだ実用化には不十分な値です。また、なぜLi+伝導度が向上したのかも、現状では推測の域を出ておらず、今後はLi+伝導度発現のメカニズムを解明しつつ、より高いLi+伝導度が発現できるように、材料を改良していく必要があります。固体電解質のLi+伝導度向上のためには、一般的には他の元素をドープしますが、どのような元素が有効であるかは未解明です。今回着目したベースとなるフッ化物自体が新規である以上、まだまだ試されていないドープ元素の組み合わせはたくさんあると考えられ、今後は硫化物や酸化物と同じように、フッ化物系から「まさか」と思われるような優れた材料が見出されると期待されます。

 本研究は日本ガイシ革新的環境イノベーション研究所、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP22H02179)の助成下で行われました。

用語解説

①Li3AlF6
Li+と八面体のAlF63-イオンが規則的に配列したイオン結晶で、氷晶石と呼ばれています。Al2O3電解の際の融点降下剤として使用されている材料です。

② 全固体リチウムイオン電池
電解質に固体を用いたリチウムイオン電池。有機電解液を含まないため、電池の発火のリスクは大きく低減されます。また安全であるだけでなく、有機電解液には溶解してしまって使えなかった高容量な電極材料も使用できるため、液体電解質を用いた電池では実現できなかった、電池の高エネルギー密度化が達成できると期待されています。

③ リチウムイオン電池
負極にリチウムの合金を用いた電池。負極の動作電位が低いため、リチウムイオン電池は高電圧(約3.7 V)で使用できます (アルカリ乾電池は約1.5 Vです)。このような動作電位の低い負極と接触すると、水は電気分解されてしまいます。そのため、リチウムイオン電池では水溶液を電解質として使用できません。そこで負極と反応しない電解質として、可燃性の有機電解液が(止む無く)使用されており、これが電池発火の直接の原因となっています。したがって、電池電圧と安全性がトレードオフになっていると言えます。ちなみに、リチウム金属を単体で負極に用いた電池は、リチウム"イオン"電池と区別され、「リチウム電池」と呼ばれます。

④ 固体電解質
固体であるにもかかわらず、Li+が結晶中を高速で移動できる材料。隙間の無い結晶ではLi+は動けず、結晶中に適度な空隙が必要となります。例えば、結晶中でLi+が存在するはずの位置が空席であったり(Li+空孔)、逆に本来Li+が存在しない位置にLi+が存在することで(格子間Li+)、Li+がホッピングして結晶中を移動できるようになります。完璧な結晶よりも、このような欠陥が入った結晶の方が、イオンは移動しやすくなる傾向があります。

⑤ Li+伝導度
Li+が固体中をどれだけ高速に移動できるかを表す物理量。ある材料のLi+伝導度が高いと、電気抵抗が低くなる傾向があります(厳密には、材料の形状によって電気抵抗は変化します)。

⑥ ボールミリング
固体材料を粉砕する手法の一つ。粉砕容器と、これと同じ材質のボールと共に試料を入れて、400 ~ 600 rpmで高速回転させることで、微粉末に粉砕します。また微粉化だけでなく、ボール同士あるいはボールと容器壁面との衝突による機械的なエネルギーを利用して、複数の異なる原料粉末から新規材料を合成することもできます。本研究では後者の目的で用いています。

⑦ ドライルーム
水分濃度が100 ppm 程度に保持された実験室。酸素はあるので、人間が部屋に入って作業が可能。グローブボックスより作業性は格段に向上しますが、扱う材料はこの環境で安定である必要があります。

⑧ クーロン効率
充電容量に対する放電容量の比率。理想的な電池ではクーロン効率は100%ですが、実際は副反応や、充放電毎の電極/電解質界面状態の微妙な変化により100%以下になることが多いです。

⑨ グローブボックス
大気と反応しやすい試料を合成?保存するための、密閉された大型の作業容器。酸素や水を除去する触媒を経由して常に高純度なArガスが循環されており、グローブボックス内の酸素?水分濃度は数 ppmに保持されています。リチウムイオン電池材料は大気中で不安定な試料が多く、グローブボックスで扱われることが多いです。酸素が無いので人間はグローブボックスの中に入れず、実験する際はグローブボックス前面に装着されたゴム手袋を通して、作業を行います。ゴム手袋が分厚いので作業には慣れが必要。また夏場は暑くて大変。

論文情報

論文名: Enhancement of the Li+ Conductivity of Li3AlF6 for Stable All-Solid-State Lithium-Ion Batteries
著者名: Reona Miyazaki, Genki Yamaguchi, En Yagi, Toshihiro Yoshida, and Takahiro Tomita
掲載雑誌名: ACS Applied Energy Materials
公表日: 2024年3月14日
DOI: doi.org/10.1021/acsaem.4c00115
URL: https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsaem.4c00115

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(物理工学領域) 
准教授 宮崎 怜雄奈
TEL: 052-735-5505
E-mail: miyazaki.reona[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
TEL: 052-735-5647       
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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