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「結合交換」を利用した物性変換型ポリマーの開発 ―強度可変な新規ホットメルト接着剤への応用に期待―

カテゴリ:プレスリリース|2024年04月10日掲載


発表のポイント

〇 一度合成した後の物性変換ができないという従来のポリマー材料の常識に対し、"結合交換"を利用した物性変換型ポリマーを開発
〇 ポリマー分子鎖間に結合交換が進行する過程で、熱可塑性状態から架橋状態へと変化させ、元々柔らかい性質(ソフト)から剛直な性質(ハード)まで自在に制御
〇 剛直な架橋樹脂に変化させた後も、リサイクルが可能
〇 塗布した後に高強度化が可能な新しい接着剤としての応用に期待

概要

 名古屋工業大学大学院工学研究科工学専攻(生命?応用化学領域)の林幹大助教らの研究グループは、これまで蓄積してきた結合交換の知見を活かし、合成後に物性変換可能な新規樹脂の開発に成功しました。ポリマーを合成した直後は熱可塑性樹脂として振る舞う柔らかい性質であるのに対し、加熱処理によりポリマー鎖間で結合交換(※1)を介した架橋(※2)を形成させると、強度?剛性が著しく上昇します(図1)。通常、樹脂物性はモノマーの選択時(つまり合成時)にすでに決定されてしまいますが、本設計ではポリマー合成後の自在変換が可能となり、途中で添加物を利用することなく、単一のモノマーペアから広範の力学物性が表現できるという独創性があります。結合交換を促すための加熱条件(温度?時間)によって、広範な力学物性をテーラーメードに表現できる本コンセプトでは、目的に合うようにポリマーをその都度再合成する必要がなくなります。合成の簡略化やモノマー利用の削減を導く本コンセプトは、CO2や石油資源に関する国際目標に貢献でき、新規ホットメルト接着剤(※3)や3Dプリンター用樹脂など、将来にわたる工業的意義が期待されます。
 本研究成果は2024321日に学術雑誌Macromolecular Rapid Communicationsにオンライン掲載されました。

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1. 本研究のコンセプト概略図:ポリマー鎖間での結合交換により樹脂物性が変換可能.

研究の背景 

 樹脂は、架橋結合(高分子鎖間の化学的連結)の有無により熱可塑性樹脂と架橋樹脂(熱硬化性樹脂)に大別されます。架橋により高分子鎖間が連結されると弾性率が上昇し、その弾性率は架橋密度(※4)と相関関係にあります。しかしながら、熱可塑性樹脂および架橋樹脂の物性は、モノマーの選択によって合成時にすでに決定されてしまいます。特に、弾性率や伸長度などの力学物性はガラス転移温度や架橋構造の有無(または架橋密度)を主因子として決定され、ポリマー合成後の調整は不可能です。もちろん、架橋剤分子やフィラーなどの添加物を利用すれば、合成したポリマーの物性を変化させる(例えば硬くする)ことは可能ですが、"添加剤不使用"でこれを達成するという分子設計は報告されていませんでした。

研究の内容?成果

 今回、本研究グループはチオール-エポキシ基間のクリック反応(※5)を利用して水酸基を多点で有する特殊なポリエステルを合成しました。具体的には、エステル結合を含むジチオール化合物(図2中のジチオール)とジエポキシ化合物(図2中のジエポキシ)を出発モノマーとして用いて、適切な触媒(オクチル酸スズ:Sn(Oct)2)存在下で、チオール-エポキシ基間のクリックを介して重合を進行させました(100℃加熱)。本合成設計では、エポキシ開環反応(※6)により新しく水酸基が生成するため、水酸基を側鎖に多点で有する線状ポリエステルが得られます。この状態では、未架橋であるため、柔らかい熱可塑性樹脂として振る舞います(つまり、50℃程度の加熱により流動します)。
 オクチル酸スズを含有した状態のまま、上記ポリマーを高温で加熱すると、エステル結合?水酸基間のエステル交換が進行し、ポリマー鎖が架橋されていきます。なお、ここでは、オクチル酸スズはエステル交換(※7)を促進させるための触媒として作用しています。本設計において、エステル交換の活性化温度は130℃以上であると確認しており、その温度や加熱時間をパラメーターとして、架橋密度を制御することが可能でした。結果として、熱的性質(例えばガラス転移温度:図2b)や力学的性質(例えば伸長特性やヤング弾性率:図2c)が、合成したポリマーを出発点として広範に変化させることができました。

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2. (a) ポリマー(水酸基を側鎖に多点で有する特殊ポリエステル)の合成設計. 加熱温度および加熱時間に依存した(b)ガラス転移温度および(c)ヤング弾性率の変化挙動.

 

 本コンセプトの特徴である熱可塑性樹脂から架橋樹脂への材料変換および物性変換を活かし、新規ホットメルト接着剤としての応用を試みました。この場合、初期状態の熱可塑的な性質により被着体に容易に塗布することができ、その後加熱処理により架橋を施すことで接着力の調節が可能です。図3aは、アルミニウム板に初期の未架橋ポリマーを塗布し、加熱処理による熱硬化後の接着特性変化です。剥離過程では、加熱処理していない初期状態では糸を引きながらサンプルが解離したのに対し、加熱処理したサンプルでは糸を引くことなく凝集破壊を示しました。破断強度は加熱処理時間の増加に伴って大きく上昇し、熱可塑性樹脂から架橋樹脂への材料変換に伴う接着力の調節が可能であることが明らかになりました。したがって、本コンセプトは樹脂としての物性変換だけではなく、接着力の調節ができる新規ホットメルト接着剤としての利用が可能であることがわかりました。
 さらに重要な点は、最終的な架橋樹脂でもリサイクルが可能であるということです。架橋樹脂中には、水酸基?エステル結合?エステル交換触媒が存在するため、加熱により架橋網目中での結合交換(エステル交換反応)が生じます。架橋網目中で結合交換が活性化する温度以上では、一時的に分子鎖の運動性が増すため、擬似的な熱可塑性状態となります。サンプルを細かく切断し、テフロン製の型に敷き詰め、190℃で熱プレスした結果、細断された破片が融合し、均一なフィルムが得られ、リサイクル性が確認できました(図3b)。リサイクル後の引張試験を行うと、最大応力や破断ひずみはリサイクル前のサンプルに対して80 - 90 %の回復率を示しました。

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3. (a) 加熱?変換前後での接着剥離挙動の違い. グラフ中の時間(h)は170℃での加熱時間を示す.
(b)
熱プレスによるリサイクル挙動および伸長特性(引張試験)の変化.

社会的な意義?今後の展望

 本コンセプトは、「ポリマー合成後は物性を変えることができない」という常識および、従来明確に分類されていた熱可塑性樹脂/架橋樹脂(熱硬化性樹脂)の垣根を壊す第三の樹脂設計(熱硬化型?熱可塑性樹脂)として高分子分野全体に新しい潮流を導くことが期待できます。応用としては、上述のホットメルト接着剤としての利用の他に、熱溶解積層方式3Dプリンター用樹脂などへの展開を想定しています。これらの技術では樹脂の熱可塑的流動が必須ですが、これまで強度が最大の課題とされており、本研究の物性変換を応用すれば塗布?射出後の架橋により強度向上を達成することができます。接着技術や3Dプリンターによる微細成形技術は、自動車?航空機?機械などの幅広い業界にとって重要であり、本コンセプトの発展は、工業面でも大きなインパクトが期待できます。

 本研究はJSPS科研費(JP22K05210)の助成を受けたものです。

用語解説

(※1)結合交換
熱や光などの外部刺激により、結合が交換する反応。本設計で用いたエステル交換反応はその代表例。

(※2)架橋
高分子の分子間に橋を架けたような結合をつくること(代表的な架橋としてはゴムの加硫がある)。このように架橋された高分子の構造を架橋構造という。加熱反応により高分子鎖間が架橋された樹脂は熱硬化性樹脂と呼ばれる。

(※3)ホットメルト接着剤
加熱して融かして基板に塗布し、室温で冷やされて固化するプロセスで接着させる接着剤のこと。

(※4)架橋密度
架橋構造の単位体積中に存在する架橋点(架橋結合)の数。一般に、架橋密度が高くなる程、弾性率は大きくなる。

(※5)クリック反応
複雑で多段階の合成を必要とせず、簡単に目的の化合物が高収率で得られる反応の総称(副生成物が得られにくい)。

(※6)エポキシ開環反応
エポキシ環は、2つの炭素と1つの酸素が含まれる環ひずみ構造を有する三員環のエーテルである。エポキシ環がカルボン酸やチオール基などと反応し、水酸基を生成する反応をエポキシ開環反応という。

(※7)エステル交換
加熱下でエステルとアルコールを反応させた際に、それぞれに連結したアルキル部分が入れ替わる反応。

論文情報

論文名:Seamless, Self-Transformation of Thermoplastic Polyesters into Vitrimers Through Bond Exchange-Triggered Cross-Linking
著者名:Taketo Isogai, Mikihiro Hayashi
掲載雑誌名:Macromolecular Rapid Communications
公表日:2024年3月21日 (in press, web-published)
DOI:10.1002/marc.202400125
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/marc.202400125

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科工学専攻(生命?応用化学領域) 
助教 林 幹大
TEL: 052-735-7159
E-mail: hayashi.mikihiro[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
TEL: 052-735-5647       
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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